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  • 斉藤牧場で「アニマルウェルフェア」について考えてみる

    2024年 7月 31
     by ノルドマルク

     

    7月24日、私の自宅近所の旭川市江丹別では24時間降水量が200㎜を超え、観測史上最大でした。農道の閉鎖などもあり、市内では高速道路も閉鎖しJRの特急も運休などがありました。そんな土砂降りの日に、当初から予定していた東京からの研究員の方が市内の斉藤牧場見学に来られました。

    斉藤牧場は1950年代に山形市から旭川開拓団に加わった斎藤晶氏によって切り開かれた牧場です。牧場といっても当初は笹だらけの岩山だったそうです。面積は130haで東京ドーム28個分にあたります。この起伏の激しい牧場で牛たちは早朝と夕方に牛舎に戻ります。この大雨警報が発表された早朝も牛たちはリラックスした様子で、牛舎内で搾乳の順番を待っています。私たちが近づいても特に警戒する様子はありません。

     

    斉藤牧場では雌牛は生まれて2年以上たったのち、自然の中に放たれた雄牛と自然交配を行います。雄牛は2頭飼育されています。通常弊社では社員が牛に近づく場合(特に雄牛)、けがなどしないよう細心の注意をはらうよう指示しています。ところがこちら斉藤牧場では、雄牛に近づき「うしみる首輪」の締め直しを行っても、雄牛はおとなしくしています(上記写真)。

    発情、妊娠、出産、搾乳、乳量調整など人間の希望するスケジュールで管理されていないせいか、斉藤牧場の牛は明らかにリラックスして日々を過ごしているように感じます。斉藤牧場の牛は大変寿命も長いとのことです。

     

    早朝の搾乳を終えた牛たちもさすがに記録的な大雨で驚いたのか、草地に向かう足が今日は大変重いようです。

    牛がかろうじて通れるような細道も牛たちは、お構いなしに突き進んでいきます。広大な牧場の中にところどころ小川が流れ、小さな水たまりも点在しています。

     草を食み、反芻し、横たわり、小さな池で水を飲み搾乳のため牛舎に戻る。こちら斉藤牧場では今日のような記録的豪雨の日でも「自分たちなりの」行動様式で、日々ストレスとは無縁な生活を続けています。牛たちは自由に生活しているように見えますが、広大な山地牧場の急勾配で足を滑らせ、命を落とす牛もいます。誕生から死を迎えるまで、牛たちの行動要求にそった飼育方法・・・こちら斉藤牧場では真のアニマルウェルフェアが実践されていると感じます。

     

  • 斉藤牧場で感じるアニマルウェルフェア

    2021年7月26日
    by ノルドマルク

     

    弊社は旭川市の斉藤牧場 で放牧牛システム「うしみる」に関わる実験をさせていただいています。ここは「人と牛が協力し、山々を守るための牧場」ということで、様々な牛の自然な行動を観察することが可能です。今回は斉藤牧場における放牧とアニマルウェルフェアとの関係について考察してみました。

     

    日本も加盟する国際獣疫事務局(OIE)においてアニマルウェルフェアは以下のように定義されています。

    ①飢え、渇き及び栄養不良からの自由

    ②恐怖及び苦悩からの自由

    ③物理的、熱の不快さからの自由

    ④苦痛、傷害及び疾病からの自由

    ⑤通常の行動様式を発現する自由

     

     1.運動

    (クリックで拡大)

    斉藤牧場で放牧牛にGPSロガーを装着し、1.5日の移動距離(10分間隔)を調べたところ、かなり険しい山を9.2kmも移動していました。ここで初めて牛の行動観察を行った時に、まず牛の足腰の強さに驚かされました。険しい笹薮の中をどんどん突き進んでいく牛たちに、こちらもついていくのがやっとの状態です。ここの牛たちは自分の行きたい場所に行き、食べたいものを選び口にするという自然な行動様式を発現しています。これだけ毎日歩いているのですから、屋内飼育牛とは、蹄の状態などもちがっているのではと容易に想像がつきます。肥育牛にとって運動は生産性の観点からデメリットになるかもしれません。しかし歩き回ることにより牛が健康を維持できるということは酪農家にとっても大きなメリットです。

     

    2.採食

    加速度センサーを牛の首に装着すると、牛が強い力で草を舌で巻き取っている様子がわかります。牛は本来、舌で強烈に草を巻き取って草地を食べすすんでいく動物です。牛の成長には濃厚飼料も必要ですが、斉藤牧場では牛が自分のカラダと相談しながら食べたいものを選択してるようです。険しく細い沢に水を求めて牛が分け入っていく光景もよく見かけます。こちら旭川も今年は高温で草があまり育たず、代わりに牛が笹を食べることになり、そのため乳量が落ちることがあるようです。

     

    3.自然な行動

    広大な牧草地では虫なども牛によってきますが、背中にとまった虫を顔や尻尾で追い払うのも、ある意味「刺激」で牛にとって自然な行動発現なのかもしれません。

    斉藤牧場では牧場内に木々や岩などがあり、牛は木に首や背中を擦り付けてかゆいところをかいています。時には細い木の枝に眼の周りを擦り付けかいています。「眼にささるのでは?」と見ているこちらも気が気でありません。しかし牛の方は慣れたもので顎の部分を岩にすりつけたりするなど、自由に身づくろいをしています。牛舎にもカウブラシなどを設置しているのをよく見かけますが、斉藤牧場の牛たちは自然にあるものを利用して体調を整えているようです。

     

    斉藤牧場ではある牛が別の牛に顔の周りをなめてもらっているのをよく見かけます。ソーシャルグルーミングともよばれる親愛行動ですが、複雑な牛群ネットワークを維持するための行動であるとする文献も見かけます。

     

    牛たちは猛暑日には日陰に入り休息し、大雨の時には木の下で雨をしのいでいます。

    こちらの斉藤牧場では牛たちが場所、食べ物などを自分たちで選択しながら日々を過ごしています。ヒトにとってアニマルウェルフェアと生産性を両立するのは大変難しい課題かもしれません。しかしこちらの牧場で、子牛が人になでられながら山を下りてくる姿を見ると、斉藤牧場の牛たちの「幸福度」はかなり高いのではないかと想像しています。

     

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